野菜と果物の定義は曖昧です。甘いものがフルーツ、甘くないものが野菜、あるいは木になるものがフルーツ、木にならないものが野菜といったように大方の野菜・果物はこうした分類によって野菜か果物かに区別することができます。
しかし、すべての果物・野菜がそうとはいきません。例えば、メロンやアボカド。文部科学省の日本食品標準成分表によると、アボカドは甘くないのに果物。メロンは甘いのに野菜に分類されています。
他にも同じような例はたくさんあります。トマト、スイカ、いちご、ナス、きゅうり、カボチャなどなど、甘いから果物、甘くないから野菜といった定義では正確に分類できない種類の果物・野菜は多くあるのです。
こうした野菜・果物をどちらに分類するか。その議論は古くから話題を集めていて、トマトの分類をめぐってはアメリカで裁判まで行われたことさえあります。
曖昧な果物・野菜をどう分類するか。この難問に対して生まれたのが今日紹介する2つの単語、果実的野菜と野菜的果実です。
今回は野菜的果実と果実的野菜の意味とその定義について、またどんな野菜・果物がこうしたカテゴリーに分類されるのか紹介していきます。
目次
そもそも野菜と果実の定義と違いは何か
果実的野菜と野菜的果実について話すためには、まず野菜とは何か。果物とは何か。この2つの点を設定しておく必要があります。
冒頭で述べたように野菜と果実の定義は非常にcontroversial「議論を引き起こす」なトピックなのですが、ここは一度複数のソースにあたってどの主体がどう野菜や果物を定義づけしているかを一覧にして見てみることとします。
農林水産省の定義する野菜
まずは日本の農業を管轄するトップといってもよい農林水産省が野菜をどう定義しているのか、農林水産省に寄せられた質問を元に見てみます。
野菜と果物の違いを教えてください。また、すいか、メロンは野菜、果物のどちらですか。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/yasai_teigi/
野菜と果物(果実)の分類については、はっきりした定義はありません。あるものを野菜に分類するか果物に分類するかは、国によっても違い、日本でも生産・流通・消費などの分野で分類の仕方が異なるものもあります。生産分野においては、一般的に次の特性を持つ植物が野菜とされています。
1. 田畑に栽培されること(栽培されていない山菜などは野菜と区別することが多い)
2. 副食物であること
3. 加工を前提としないこと(こんにゃくのような加工を前提とするものは野菜としていない。漬物のように原料形質がはっきり残っているものや家庭における簡易加工は加工に含まない)
4. 草本性であることしかし、どの定義も確固たるものではありません。また、農林水産省では、果実を、生産や出荷の統計をとる上で果樹として分類しています。
まず回答の冒頭で農林水産省は野菜と果物について明確な定義がないことを明らかにしています。その上で、生産分野においては、
- 田畑での栽培
- 主食とともに食べる副食物
- 加工なしで食べられるもの
- 草本性であり樹木に実るものではない
以上の4点を特性として示しています。
せっかくなのでこのページに参考資料として掲載されていた「野菜の生態と作型」という本を閲覧したところ、p.2野菜の生育と環境にこの回答とほぼ同じ野菜の特性4つが挙げられていました。
同書では、この野菜の定義づけの元となったのが卸売市場での分類だった点、上の定義はあくまで生産サイドでの定義であり流通・消費サイドとは別という点についての記載もあります。
一旦まとめると、農林水産省の回答にあるような、あるいは文部科学省の日本食品標準成分表のような分け方は、あくまで生産側の分類であり、私たち一般消費者が購入し食事する際の分類とは異なることが分かります。
例:イチゴは生産分野においては野菜ではあるものの、スーパーでは果物売り場で売られていて、私たちもフルーツとして食べることが多い。
消費者サイドに立った野菜と果物の分類
消費者側の視点に立って野菜と果物を分けているのが辞書による説明です。
英語圏での「野菜」「果物」の定義
英語圏ではどのように野菜が定義されているのでしょうか。ここでは、イギリスのオックスフォードラーナーズディクショナリーと、アメリカのケンブリッジディクショナリーで「野菜」「果物」の英語名である”vegetable”、”fruit”と調べた時に掲載される説明文を見てみます。
vegetableとfruitの定義:オックスフォードラーナーズディクショナリー
a plant or part of a plant that is eaten as food. Potatoes, beans and onions are all vegetables.
「食料として食べられる植物もしくは植物の一部。じゃがいもや豆、玉ねぎはすべて野菜である。」
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/vegetable
the part of a plant that consists of one or more seeds and flesh, can be eaten as food and usually tastes sweet
「1つかそれ以上の種子と果肉から成る植物の一部。食用可能で一般的には甘い。」
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/fruit
vegetable「野菜」の定義:ケンブリッジディクショナリー
a plant, root, seed, or pod that is used as food, especially in dishes that are not sweet:
「食料として用いられる植物、根、種、もしくは鞘。とりわけ甘くない料理に使われる。」
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/vegetable
the soft part containing seeds that is produced by a plant. Many types of fruit are sweet and can be eaten:
「植物の種子を含んでいる柔らかい部分。果物の多くは甘く食用可能。」
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/fruit
アメリカの辞書であるケンブリッジ辞書にはオックスフォードラーナーズディクショナリーよりも詳しく、野菜は”甘くない料理に使われる”との記載があります。
果物についてはどちらも、”甘い”、”食用可能”と説明されています。
フランス語圏での「野菜」「果物」の定義
英語圏以外の言語で「野菜」と「果物」がそれぞれどのように表現されているかについても念のため触れておきましょう。筆者はフランス語学習歴があるので、フランス語辞書として名高いラルース辞書で「野菜」「果物」の 仏語名である”légume”、”fruit”を調べて見ます。
Plante cultivée dont on consomme, selon les espèces, les feuilles, les racines, les tubercules, les fruits, les graines
「種類によって葉、根、塊茎、実、種子を食用とする植物。」
https://www.larousse.fr/dictionnaires/francais/légume/46603
Produit comestible de certains végétaux, de saveur généralement sucrée.
「一般的に甘みのある、食用可能ないくつかの植物」
https://www.larousse.fr/dictionnaires/francais/fruit/35455
仏語辞書においても、果物は一般的に甘みのあるものと定義しているようです。野菜については食用形態についての記載がありませんでした。
ここまで見てきた3つの辞書の説明から定義の部分だけを抜き出すとこのようになります。
辞書名 | 野菜 | 果物 |
---|---|---|
オックスフォードラーナーズディクショナリー | 食料として食べられる植物もしくは植物の一部 | 1つかそれ以上の種子と果肉から成る植物の一部。食用可能で一般的には甘い。 |
ケンブリッジディクショナリー | 食料として用いられる植物、根、種、もしくは鞘。とりわけ甘くない料理に使われる。 | 植物の種子を含んでいる柔らかい部分。果物の多くは甘く食用可能。 |
ラルース | 種類によって葉、根、塊茎、実、種子を食用とする植物。 | 一般的に甘みのある、食用可能ないくつかの植物。 |
農林水産省が示す2番目の特性である「副植物であること」を考慮した上で、これらの辞書の見解を見ると、一般的に野菜は料理に使われて、果物は甘みがあることが共通認識となっていると理解できます。
こうした認識はどれも生産分野からの区別ではなく、実際の利用シーンに基づいた消費者的区別となっていることが分かります。
例:アボカドは果物に属していても、実際にスーパーで売られているのは野菜売り場なので野菜と分類する。
野菜的果実と果実的野菜の特徴
以上、生産サイドでは、野菜・果物はどのように育ち、どのように栽培されるか。消費者サイドでは、野菜・果物はどのように食べられて、どのような味がするか。
こういった別視点から野菜・果物を定義しようとしているため、相互に齟齬が生まれることが分かりました。ここで捉え方の差を埋めようとする概念が冒頭で紹介した野菜的果実と果実的野菜です。
野菜的果実や果実的野菜という言葉は生産サイドと消費者サイドの橋渡し的概念、つまり両者の定義を調整するための単語として認識すると理解しやすいかもしれません。
- 果実的野菜は生産の上では野菜と定義されるものであっても、実際の食事シーンでは果物として食されることが多いもの。
- 野菜的果実は生産の上で果物として定義されるものでも、消費者は野菜のように食べるもの。
こうして定義すると、これまであやふやだった差異がはっきりしてくるのではないでしょうか。
代表的な果実的野菜
野菜のように生産されて果実のように食べられるものの代表は、いちご、スイカ、メロンなどです。
私たち一般消費者は完全にフルーツだと思っているものも、生産サイドから見れば野菜カテゴリーに属するものなのです。
代表的な野菜的果実
反対に、果物のように栽培されて、野菜のように食事の一部として食べられるのはアボカド、柚子、レモンなどです。
まとめ:生産側か消費者側のどちらから見ているのか
以上が野菜と果実の違いを果実的野菜・野菜的果実という単語を用いて解説した結果となります。
誤解を生まないためにも、生産側から見た野菜なのか、消費者側から見た野菜なのか、この点をあらかじめ共有した上で話し合いをすると、誤解が生じずに、すんなりと野菜・果実の違いを理解できるのではないかと思います。
*データの参照元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
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